LOGIN「それにしても、キッカイ町は面白い場所ですねえ」
移動の車中、
特に変わりは無いように見えるけど……。
「見てください。7Gですよ! 飛んじゃいけないものが飛んでます」
言われて初めて気付いた。
画面の左上、受信中の電波マークの隣には「7G」と表示されている。 当然のように私のスマホも……。「あれ? 5Gが最新でしたよね??」
「そうね。だけどこの辺はまだ基地局が出来てないから4Gしか飛んでないはずよ」 助手席に座る
「7Gって何なんですかねぇ? …&h
私が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。 小津骨さんと結城ちゃんの心配そうな顔が私を覗き込んでいる。「……っ」 体を動かそうとすると激痛が走って、思わず声が漏れた。「香塚さん!?」 「先輩っ! よかったぁ……」 「ゆめ、の……図書館、は……」 「いいの。もう終わったのよ」 起き上がろうとしたところを小津骨さんに止められた。 小津骨さん曰く、表面的なケガはないけれど私の肋骨にはヒビが入っている状態らしい。 この前の手首の骨折に続いて肋骨かぁ。 ついてないなぁ。 っていうか、終わった……?「香塚さん、花を掴んでくれたでしょう? あれね、わたしたちには見えてなかったのよ。香塚さんがあれを引きちぎってくれなかったら危ないところだったわ」 「え? 見えてなかった??」 あの巨大な花が?? 私にしか見えない?? もしかして、瀬田さんのメガネのおかげだったの??「あっ! 瀬田さんのメガネ!!」 周りを見回しても、私の荷物らしきものは真藤くんのカバンに積んでいたバッグだけで、中身はスマホと財布とこまごましたものばかり。 そこにあのメガネはなかった。「ごめんなさい。香塚さんが池に飛び込んだ時、メガネが沈んじゃったみたいなの。怜太に探させたんだけど、見つからなくて……」 そっか、バタフライなんてしたら飛んで行っちゃうよね……。 軽率だった。「瀬田さんに代わりになるものがないか聞いてみるけど、いざとなったらわたしや結城さんが『目』の役をするわ」 「頑張ります!」 結城ちゃんが気合十分といった風にガッツポーズをして見せる。 なんか、それはそれで迷惑かけちゃうような気がするから気が引けるんだけど……。「それで、あの後って何があったんですか?」 「わたしも全てを把握しているわけじゃないから、あくまで推測の話だと思って聞いてね?」 そう前置きをして、小津骨さんはあの日のことを教えてく
睡さんが不思議がっていた通り、たしかに私は倒れなかった。 倒れ“は”しなかった。 けれど、金縛りにあったように――実際にあったことがないから想像でしかないけれど――手も足も、まぶたでさえも動かすことはできなかった。 身動きが取れない私たちは、いとも簡単に屋敷の外へつまみ出されてしまった。 屋敷の外は雑草だらけで荒れ放題。 夢から現実に戻されてしまったようだ。 周囲に結城ちゃんはいないから、きっとまだあの図書館の中にいるはず……。「小津骨さん、どうしましょう……」「確証はないんだけど、この夢の図書館が怪異じゃないかと思うの」「そりゃそうっスよ! これが怪異じゃなきゃ何が怪異なんスか!」 食って掛かる真藤くんを、そうじゃなくて、と小津骨さんが止める。「司書? 管理人? って名乗ってた二人がいたでしょう。あの二人はあくまでこの図書館の一部であって、この怪異の本体はこの図書館の建物そのものじゃないかと思うの」「え? そんなことあるんですか??」「幽霊船みたいに人間と建造物が一体になった怪異もあるでしょう? それに近いものじゃないかしら」 そういうことか! っていうことは……――。「退治しなきゃいけないのはこの建物そのものってことですか?」 このサイズじゃ瀬田さんからもらった聖水じゃ足りないよ……!「灯油を使えば燃えるっスかねぇ」 真藤くんってば、この前髪の毛の塊を燃やそうとしてひどい目に遭ったはずなのに懲りてないし。 でも、それくらいのことをしないと退治できる気がしないし……。 その時、風に乗った甘い香りがふわりと私を包んだ。 まただ。 あの夢と同じ匂い。「この匂い、どこから来るんでしょうね」「匂い? なんのこと?」「わかんないっス」「え?」
草むらの中を進むこと数十分。 ようやく辿り着いた洋館の外壁はツタで覆われ、窓ガラスは割れ、ホラー映画にでも出てきそうなおどろおどろしい雰囲気に満ち溢れていた。「もしかして、入るの?」「もちろんっス!」 いつもなら逃げ出す真藤くんが、今日はなぜか先陣を切って進んでいく。 結城ちゃんは結城ちゃんで夢の図書館に魅入られてるけど、真藤くんも何かしらのモノに憑かれているんじゃないかと思うくらいの豹変ぶりだ。「お邪魔しますっスー」 真藤くんは入口の扉が外れていて押しても動かないと察すると、思い切り体当たりをして強引にこじ開けてまで中へ入り込んでいく。 扉の隙間から見えた建物の内部に私は息を呑んだ。「ここ、夢で見たお屋敷と同じです」 かなり荒れ果てているが、中の構造には見覚えがある。 リーリエちゃんが出迎えてくれた玄関ホールだ。 真藤くんを追いかけて恐る恐る中へ入ると、夢で嗅いだのと似た甘い匂いがふわりと鼻先をくすぐった。 壁には亀裂が入り、建物全体が埃っぽい。 飾られている絵画はずいぶんと色あせているし、ここが廃墟になってから長い時間が経っているようだ。 ボロボロながら原形を留めていたソファーに積もった土埃を軽く払うと、小津骨さんは羽織っていたカーディガンを敷いてから結城ちゃんを座らせた。 流れるような動作に思わず惚れてしまいそうになる。「うわっ、危ないっス!」 本棚のある広間の方へ向かっていた真藤くんが声を上げながら後ずさった。 何事かと思って近くへ行ってみると、腐った床板に大きな穴が開いているではないか。「危うく落ちるとこだったっス……」「こんな所でケガしたら洒落にならなさそうだから気を付けてね? 廃墟探索をしてた人が錆びた釘を踏み抜いて敗血症になったんだったか、そういうような話を聞いたことがあるし」「マジっすか!?」 真藤くんの顔がスッと青ざめる。「命の危険があるぶんお化けより怖いよね」
私は帰宅するとすぐに枕の下へ本を押し込み、ベッドに寝転んだ。 いつもより早い時間だからまだ眠気はないけれど、ゆっくりと深呼吸をして眠りにつく努力をしてみる。「あ。入れた」 気が付くと私は夢の図書館にいた。「お久しぶりです」「また来ていただけたのですね。光栄です」 リーリエちゃんと睡さんが私を出迎えてくれる。 けれど、二人の目つきは以前と比べてなんだか鋭い。「前回とは違う本からお越しになられたのですか?」「……あ、はい。私が持ってた本は違う人に貸しちゃってて、別でこの本を持ってる人がいたからそれを借りてここへ来たんだけど」 私の言葉を聞いた二人はひそひそと言葉を交わしてから私に向き直った。「申し訳ございませんが本日はお帰りください」「えっ?」 私が理由を尋ねる前に図書館は消え、世界は光に包まれた。 夢から強制退室させられるなんて初めての経験だったから、驚いて目が覚めてしまった。 どうしよう、結城ちゃんを捜すっていう役目を果たせなかった。 もう一回寝直せば大丈夫かな? 眠気が早く来るようにホットミルクを一杯飲んで、改めて布団に潜り込む。 しかし、その晩に私が見たのは特に印象に残ることもない普通の夢だった。「ごめんなさい。役立たずでした」 私は伏木分室に入ってすぐ頭を下げた。 三つの影がいいのいいの、と私を庇ってくれる。 ……三つの、影?「結城ちゃん!?」「俺が見付けたっス~」 ドヤ顔はムカつくけど、すごい活躍。 結城ちゃんは昨日よりさらにやつれていた。 耳なし芳一の話を信じるなら、命を取られるのは七日目。 つまり明日だ。 見ていて痛々しい姿だけれど、今日は夢の図書館に繋がる本を持ってきている。
病院に運び込まれた結城ちゃんは、いくつかの検査を受けた結果、単なる寝不足でしょうとの診断を受けた。 でも、本人は昨日一日を寝て過ごしてたって言ってたのに……。「なんだかあれね。耳なし芳一の話みたいね」 伏木分室に戻った小津骨さんがぽつりと漏らした。 耳なし芳一。 聞いたことあるな。 目の見えない琵琶法師の芳一が偉い人の家に気に入られてお呼ばれするようになったので喜んで通っていたら、日に日に衰弱していって。 和尚さんが心配になって後をつけてみたら墓場で亡霊に囲まれながら平家物語の弾き語りをしていた、みたいな話だっけ。「あの話、どんな終わり方したんでしたっけ」「これ以上通ったら命を取られるからって和尚さんに全身にお経を書いてもらって、亡霊から見えないようにしてもらったのに耳だけお経を書き忘れたせいで亡霊に見えていた耳だけ持っていかれて終わりじゃなかったかしら」「あー! なんかそんなオチでしたね」 壇ノ浦の亡霊とリーリエちゃんたちは別物なんだろうけど、毎日通っているうちに衰弱していくってのは似てるかも。 そう考えるとちょっと心配なんだけど大丈夫かな?「どうにかして本を回収した方がよさそうね」「そうですね……。すみません。私があの本を持ってきたばっかりに」「いいのよ。むしろ誰にも言わずに香塚さんが持ち続けていたら、香塚さんが原因不明の体調不良になっていたかもしれないし。そうなっていたら助けようがなかったわ」 小津骨さんの言う通りだ。 自分一人で解決できないかなと思ったりもしたけれど、そうしていたら本当に原因不明で大変なことになっていたかもしれない。 その時、電話が鳴った。「大変。結城さんが病院からいなくなったらしいわ」 今日一日は病院でゆっくり休むように言われていたはずなのに。 なんだかとても嫌な予感がした。「私、ちょっと結城さんの様子を見に家へ行ってくるわ」「お願いします!」 こ
「……っていうことで、この本を近くに置いて寝ると夢の図書館に行けるみたいなんですけど、栞がずれるっていうのが結び付かなくて。小津骨さん、どう思います?」「どう、って言われると難しいわね。その『夢の図書館』っていうのがみんな共通して同じように見えるのかもわからないし、まして香塚さんはメガネをしてない状態で行ったんでしょう? それなら正しい姿が見えていない可能性もあるわ」 小津骨さんの言う通りだ。 瀬田さんからメガネをもらったのはいいけれど、メガネをかける習慣がないと忘れちゃうんだよね……。「香塚先輩、もしよかったらその本貸してくれませんか?」 結城ちゃんはこの本に興味を持ったようで、革張りの表紙を撫でてみたりページをパラパラとめくったりしている。「結城ちゃんなら霊感も強いみたいだし、お願いできるかな?」「そうね。危険を感じたらすぐに関わるのをやめてもらって、瀬田さんか誰かに相談するようにしましょう」「えぇ……、絶対なんかあるっスよ。やめた方がいいっス」 ビビリの真藤くんは一人苦い顔だ。「何かあるんだったら私がどうにかなってるはずだし、そんなに怖がることないと思うんだよね」「何ともないのはこーづかさんが鈍感だからっス」 ナチュラルに失礼なことを言った真藤くんを小突いてその日は終わった。 翌朝、結城ちゃんは満面の笑みで出社してきた。「行けましたよ~。夢の図書館!」「どうだった?」「聞いてた通り、大きなお屋敷いっぱいに本があって、男の子と女の子が応対してくれました」 二人の容姿も、自分の夢の本を手渡されたのも同じ。 ここまで共通項が多いとただの夢とは思えない。「夢の本を持って帰ってきたら本が上書きされるって聞いたから試しに持ってきてみたんですけど、本当ですね」 本をめくりながら嬉しそうに結城ちゃんが笑う。 自分の夢の中身が書いてある本を持ってくるなんて、結城ちゃん







